「美幸さん」
「陸くん」
 私は目を瞑り、陸くんの口づけを待つ。
 陸くんの吐息が近づく。
 けれど、それは私の頬をかすめ、私の耳元に至る。
「美幸さん。お別れだ。幸せに……なって」
「違う! 私は、陸くんの側にいることが、幸せなの」
「すまない。君には、形見として、これを上げる」
 そう言って、陸くんが私の首に『お守り』を架ける。
「形見なんて欲しくない。私には、陸くんが必要なの」

 陸くんからの答えは無く、代わりの私の意識が薄れてきた。
 私の心に、テレパシーで陸くんの声が届く。
――君は……僕のことを忘れて……幸せに……なって……――
「いいえ……私の……幸せは……陸くんと……」
 私の言葉は、声にならずに霞んでいく。

――君は……幸せに……――
 聞き覚えのある声が、頭の中で私に囁く。
 瞼が落ちていく、視界が狭くなっていく。
 目の前の人影が、揺らめきながら朧になり、背景の中に滲んで消えていく。
「……私……は、……くんと」
 その名を呼ぼうとしても、思い出せない。
 その者に伸ばした手が空を掴む。
 そして、私の意識は虚ろの中に、静かに溶け込んでいった。