「ソラシドレスキューのお二方、お目覚めですか」
 壁に備え付けられたインタフォンから女性の声が流れ、私の思考は中断される。
「二人とも起きています」
 陸くんがインタフォンに向かって応える。
「了解しました。それでは、10分後にお迎えに上がりますので、それまでに部屋を
出られるようにして下さい」

 後10分しかない。
 私達は大急ぎで洗面を済ませ、ソラシドレスキューのユニフォームに着替える。
 着替えの後、私が鏡の前で髪を梳っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
―早いよ。まだ、準備中!―
 大慌てで髪を整え、顔を隠すマスクを装着。
 準備OKの目配せをすると、陸くんがドアを開ける。
 原口局員を先頭に、数人のスタッフが入室してくる。

「おはようございます。良く眠れましたか」
「いえ。あまり」
「そうですか。無理もありません。さて、早速ですが、最後のメディカルチェックを
受けて頂きますので、ついて来て下さい」
 朝の挨拶もそこそこに、原口局員が同道を促すのを
「すみません。その前に、お願いしたい事があるのですが」と陸くんが遮る。
「何ですか」
「僕達のこの服を、トリフネの船内に持ち込みたいんですが」
 と、自らのユニフォームを指し示す。
「宇宙船内では、専用の船内服を着用してもらう事になっています……」
「知っています。ですから、着るのではなく、持ち込みたいんです」
「何故ですか?」
「僕達の痕跡を、残したくないからです」
 原口局員は暫く思案したのち、
「分かりました。船内への私物の持ち込みは、ある程度認められています。私の方で
処置します」
 と応諾してくれた。