一寸先は闇、とはよく言ったものだ。
 こんな瞬間に出くわすなんて、全く思ってもみなかった。

 坂の途中に停車していた自動車が、微かな物音とともにスルスルと動き始める。
 車は グングンと速度を増し、坂道を下る。
 路上の餌を啄んでいた鳥が、ギャーと鳴いて飛び立つ。
 ハッとした時には、車は目と鼻の先だ。

 嗚呼、もう間に合わない。
 咄嗟に手を差し出す。

 そして次の瞬間、私が見た物は……。

 *****

「天は二物を与えず、って言うけどさ。美幸の場合は、全く当てはまらないよね」
「そんなことないよ」
「そんなことあるって! 本と、二物も三物もあるんだから。羨ましい」
「う、うん……」
 シーちゃんに褒め言葉を言われて、私は何と返して良いか分からない。
 正直者のシーちゃんが言う台詞だから、真っ当な誉め言葉には間違いないけれど、
やっぱり、どんな反応をすれば良いのか思いつかない。