食事の後も作業訓練は続き、私達が解放されたのは、午後11時だった。
 その後、陸くんと私は二人用の部屋に案内された。
『トリフネが打ち上げられるまで、二人は常に一緒に行動する事』
 陸くんの提示した条件を、矢田部首相達は忠実に守ってくれたようだ。
 部屋の間取りは、リビング、ベッドルーム、ダイニングキッチンとバストイレ付。
 寝室のベッドが二つだったので、少しホッとした。
 
 ここは元々、パートナー関係にある飛行士のために用意された部屋なのだそうだ。
 私も大人になったら、いつかパートナーが出来て、こんな部屋に住むことになって
いたかもしれない。
 でも、その夢は、もう叶わない。私の夢は、セルベルクと共に星空の彼方に消えて
しまう。そんな時が、もう間近に迫っている。
 こんなリビングで、パートナーや子供たちと家族の語らいをすることも……、
 こんなキッチンで料理に腕を振るうことも……、
 そんな未来は、私には来ない……。

 でも、感傷に浸っている時間は無い。  
 午前10時の打ち上げに合わせ、明日は午前5時起床なのだという。それまでに、
睡眠をとっておかねばならない。寝るのも仕事なんだ。
 陸くんと相談して、最初に私がお風呂に入った。
 打ち上げ前の最後の、入浴。あるいは、人生最後の湯浴み。
 どちらにしろ、当分、湯舟に入るなど出来そうもない。
 そんな思いで、体を隅々まで洗う。
 この掌とも、この腕とも、この顔や髪とも、もうすぐお別れなのだ。
 そんな風に思いながら。