短い時間に必要な訓練を押し込んだので、目の回るような忙しさだった。
 だけど、その方が私にとって、幸だったのかも知れない。
 時間に追われ、目の前の訓練をこなす事に意識を集中させたために、感傷に浸って
いる時間が無かったからだ。
 もし、時間に余裕があって、自分に降りかかる運命に思いを馳せていたとしたら、
私の心は重圧に耐えかねて、折れていただろう。忙しさが、不安な心に蓋をした。

 それでも、訓練中に一度だけ感情が弾けそうになった事がある。
 それは、私達の船内与圧服が、手元に届いた時だ。
 真空パックされた与圧服と一緒に、納品書を手渡され、その納品書の承認者欄に、
お父さんの名を発見した。父はトリフネ計画における宇宙服開発のリーダーなのだ。

―お父さん……―
 声なき聲を発する。
 お父さんが直ぐ近くに居る。
 会いたい。お父さんに……。一目見るだけでも良い。
 ……でも……、それは出来ない。
 私とお父さんの関係が他の人に知れたら、私の正体が分かってしまう。
 私がセルベルクと共に宇宙の彼方に去る運命だと、お父さんに知られてしまう。
 そうなったら、お父さんは、嘆き悲しむだろう。
 その運命を変えられぬ自分を責めて苦しむ事になるだろう。
 言えない。言いたくても、口に出せない。