ミッションが開始されてから、私達二人は目まぐるしい時間を過ごした。
 セルベルクへ向かうトリフネの打ち上げは、明朝の10時。今から22時間後だ。
 それまでに、宇宙船に搭乗する準備を全て済ませなくてはならない。

 まず、船内で着る宇宙服の準備。正確には船内服と与圧服の二つ。
 打ち上げと帰還時、それと月着陸船内に滞在時に、気密漏れが生じた場合に備えて
着用するのが与圧服。
 月軌道に乗って以降、船内で過ごすための軽装な船内服。
 普通は、飛行士の体形に合わせて特注するのだが、今回は既成の物を改修するのだ
そうだ。

 続いて、宇宙船の構造、船内の機器と操作方法の学習。膨大な情報量なので、一遍
にはとても覚えられない。
 ロケットの運航自体は自動制御なので、私達自身が操縦をする事はないが、船内の
移動や船内での生活のためには、必要な知識ということらしい。
 折角だから、習ったばかりのトリフネの知識を、記しておくことにしよう。
 トリフネは三段式のロケットになっている。
 一段目は、三基の液体燃料ロケットと四基の個体燃料ブースターを束ねた構造。
 二段目は、一基の液体燃料ロケット。
 三段目は、二段目を小ぶりにした液体燃料ロケット。
 三段目までのロケットを使って、トリフネは月へ向かう軌道に乗る。