「分かった。一国の首相として、君達の出した条件は必ず守る」
 矢田部首相が威厳を正して応じた。
「ありがとうござます」陸くんが頭を下げる。
 それを見て、矢田部首相が陸くんに手を差し伸べた。
 ところが、陸くんはその手を握ることをせず
「……それと……」と言葉を続けた。
「まだ何か?」
「いえ。これは、条件ではありません。お願いです……」
「なんだね?」
「このミッションが終りを迎えた時、世界に向けて発信して欲しいんです。僕達が、
何をしたのか。僕達の身に何が起こったのかを」

 えっ? それって、やっぱり私達はセルベルクと運命をともにするってこと?
 不安が胸の中で急激に膨らむ。
 私の怯えた様子に気がついたのか、陸くんが私の手を握る。
―心配しないで。今のは、方便だ。美幸さんは安全だよ―
 サイコメトリーで陸くんの、心の声が届く。
―方便? 方便って、何のための?―
 陸くんに心の中で問うたが、答えは無かった。私の声は届かないのだろうか?