「次に三番目の条件ですが、その前に聞いておきたい事があります」
「何だね」
「僕たちがトリフネに搭乗して二人きりになるのは、打ち上げのどれ位前ですか?」
 矢田部首相が、原口局員に視線を投げる。
「二時間半前です」
 訝しがりながらも、原口局員が応える。
「トリフネに搭乗してから、僕たちがやる作業は?」
「搭乗後に、お二人がするべき事はありません。打ち上げシーケンス・機体の制御は
全て自動です。強いて上げれば、機内で異常が発生した時に、連絡して頂く事です」
「分かりました。それでは、僕達の搭乗が完了したら、二人の画像、音声、バイタル
情報のモニターを中止して下さい」
 ※バイタル:バイタルサイン(生命兆候)。体温、脈拍、呼吸、意識、血圧等の情報

「しかし、それだと君達の健康状態が確認できなくなる」と原口局員。
「体調に異変が起こった場合は、こちらから連絡します。とにかく、船内の僕たちの
様子はモニターしないで下さい。これが、僕達の条件です。この条件を守って頂ける
なら、最後までミッションを遂行することを約束します」
 陸くんが力のこもった声で答える。