陸くんが顔を上げ、天井に向かって声をかける。
「谷田部首相。聞こえてるんでしょう。話は纏まりました。部屋に入って下さい」
 一瞬、陸くんが何を言ってるのか理解出来なかった。
 だが、数瞬後、困惑した顔の首相が部屋に入って来て、その意味を理解した。
 やはり、盗聴されていたのか?
「何でも、お見通しのようだね。では、単刀直入に聞こう。結論は?」
 盗聴の件には触れずに、谷田部首相が用件を切り出す。
「僕達はセルベルクに向かいます……」
 おお、そうか。
 首相が安堵の表情になる。

「ですが、そのためには幾つか条件があります」
 条件? 再び、首相の顔が曇る。
「これから僕が言う条件を、守って下さい。もし、その条件が破られたら、或いは、
破られそうだと僕達が判断したら、僕達は実力でこのミッションから離脱します」
 首相が眉根を寄せる。
「僕達は、このミッションに命を捧げるんですよ。僕らにも自分の要求を通す権利は
あると思いますけど」

「……分かった。その条件というのを言いたまえ」
「まず第一に、今から、トリフネが打ち上げられるまで、僕達二人は常に一緒に行動
する事。僕達を引き離すような動きを察知した場合、僕達はミッションを抜けます」
「うむ。分かった、そのように手配する」
 それに呼応するように、原口局員がスマホを取り出し、外部に指示を始めた。
「二番目に、僕達の正体を探ろうとしないで下さい。多分、今も僕達の画像や音声を
記録していると思いますけど、直ぐに止めて下さい。今までの記録も消して下さい」
「分かった。それも直ぐに手配する」と首相が頷く。