お母さんから頼まれた用事を頭の中で反芻しながら、シャワーを浴びる。
 温かい湯滴が、私の肌でトレモロを奏でる。ここちよい刺激。
 髪に幾度もお湯を通す。顔、首、肩と、シャワーを当てていく。
 纏わりついていた汗が流れ落ち、真新しい皮膚が生まれてくるようで心地よい。

 天井を向き、目をつぶって顔にシャワーを当てる。
 瞼の裏に、あのシーンが蘇る。
 私が手を差し出すと同時に跳ね上がった車。その後、私の手の動きに連動して宙を
舞った。
 やっぱり、私がやったのかなぁ。アレ。
 シャワーを左手に持ち替え、お湯を右の手に当ててる。
 湯滴が掌を打つ。
 右手に力を入れてみる。
 何も変わらない。右手に当たったお湯は、そのまま床のタイルに落ちていく。
 手を閉じたり開いたりしても、何も変わらない。
 エイッ! ヤーッ!
 掛け声と共に、右手に力を込める。何も変わらない。