「セルベルクへの到着時間を速めるために、加速時間を増やしているからです」
 原口局員がそう答えたが、その回答に納得できないのか、陸くんが無言を貫く。
「この事については、また後でお話します。説明を先に進めますが、良いですか?」
 原口局員の問い掛けに、陸くんが黙って頷く。
「月に最接近したトリフネは、月の重力を利用して加速して、セルベルクへと向かい
ます。それから13時間後、お二人には月着陸モジュールで、セルベルクに着陸して
貰います」

 私達がセルベルクに着陸? セルベルクに飛んで貰うって、そんな意味だったの。
「お二方には、セルベルクに滞在した状態で、セルベルクを月に近づける方向に力を
加え続けて貰いたい。そうする事でセルベルクは今よりも月寄りの軌道を辿ります。
その結果、セルベルクは月重力を強く受けて軌道が変わり、地球との衝突を免れる」

 セルベルクと地球の衝突が免れる。
 最後の言葉が心に響いた。
 地球を救える可能性がある。私達の力で。
 体の奥底から希望が湧いてきた。顔に温かみが蘇った気がする。

 私が安堵の思いで陸くんの顔をみやると、皺を刻んだ眉間とぶつかった。
「その後、僕達はどうなります。セルベルクから、どうやって地球に戻るんです?」
「それは……」
 原口局員が固い顔に変わって、口ごもる。
「それは?……」
 陸くんが次の言葉を促す。
 原口局員が谷田部首相の顔を窺う。