「ショックを受けたようですね。許してくれ給え」谷田部首相が頭を下げる。
「だが、これは紛れも無い事実なのです。セルベルクは三日後に、日本に落下する。
この事を知っているのは、政府内の極小数の人間です。此処で働く職員にも知らせて
いません。他言は無用に願います」と谷田部首相が続ける。

「セルベルク衝突の件は、分かりました。それで、僕達は何をすれば?」
 陸くんのその問い掛けに、谷田部首相は真剣な顔で、こう答えた。
「私達は、セルベルクの軌道を変えようと考えています」
「軌道を……変える?」
「そう。セルベルクの軌道を変えるのです。そして、地球との衝突自体を回避する」

――セルベルクの軌道を変える。地球との衝突を回避する――
 首相の口から飛び出した夢のような言葉に、私は一瞬で正気に返る。
「そ、それは、どうやって?!」私は急き込んで問いを発する。
「元気が戻ったようですね、良かった。ミッションの内容は、原口が説明します」

「それでは」と、原口局員が持っていたPCを操作する。
 壁掛けモニターに映像が現れる。
「これは、地球を北から見た模式図です。青い丸が地球、地球を囲む円が月の軌道、
軌道上の黄色い丸が月です」
 原口局員が説明を始める。
「太陽は図の左側遠方にあり、地球は図の上方に向かい、公転軌道を進んでいます。
一方セルベルクは、地球を追いかけるように接近してきます」
 モニター上の図に、黒い丸が現れ、青色の地球に向かって突き進む。
「セルベルクは、月軌道を横切る際、月の重力で軌道を変え、地球との衝突コースに
乗ります」
 モニター画面上の黒丸セルベルクが、原口局員の言葉通りに動き、地球に接近。
 やがて、黒丸セルベルクと青色の地球が画面上で重なる。
 私は画面から目を背ける。
 画面上の二つの点の重なりは、地球の破滅を意味しているからだ。