――セルベルクは、8月31日午後6時32分に関東地方に落下する――
 谷田部首相のその言葉が、頭の中を何度も駆け巡る。
 セルベルク。
 落下。
 関東地方。
 一体、なんの事を言っているんだ。
 思考が止まる。頭の中が真空になる。

「落下地点は即座に蒸発して、関東平野は巨大なクレーターとなります。引き続いて
起こる地震と津波で、日本列島は壊滅的な被害を受けて、日本は世界地図から永久に
消える事になるでしょう」
 谷田部首相が語る被害予測を、私は別な世界の物語として聞く。
 日本が消える。
 私の済んでいた街が消える。私の故郷が無くなる……。永久に………。

 固唾を飲む。それと同時に、体の中が急に冷たくなってきた。全身が震え出す。
 苦しい。
 ぜいぜいと、音をたてて呼吸をする。
 でも、息苦しい。まるで、酸素が体に取り込まれていないようだ。
「美幸さん。大丈夫?」
 陸くんが私の手を握る。
 陸くんのと目が合う。同時に、押し潰されていた私の感情が目を覚ます。
 ハラハラと目から泪がこぼれ落ちる。
 陸くんの顔を見つめながら、泪を流しつづける。
 私の手を握る陸くんの指先に力が入る。