「じゃぁ、その子の手をずっと握っててあげたわけ……」
「ひざまずいてたんで、足が汚れた」
「そう。良いことしたわね。じゃぁ、ゆっくりシャワーでも浴びて頂戴」
「うん。そうする」
 ふう。やっと、お母さんの虎口を脱した。と、思ったら。
「そうだ。美幸、ついでにお風呂洗っといてくれる」
「うん」
「あと、ついでにシャンプー入れ替えといてね」
「うん」
「あと、干してある洗濯物を込んで、洗濯機の中の物を干しといて」
 お母さん、どんだけ人使いが荒いんだ、全く。お母さんの『ついで』を全部聞いて
たら『ついで』だけで、月まで行けるよ、きっと。
「あと、洗濯干すときは、男物のパンツも忘れないでネ」
 私の返事も待たずに、次の注文が入る。やだなぁ、もう……。

 ここで、態々、男物のパンツを干すのには訳がある
 私の父は南九州にある宇宙センターに単身赴任中。だから、今、我が家は女所帯。
 女ばかりと思われると不用心なので、洗濯物を干す時は、父のパンツを混ぜて干す
事にきめてある。