かれこれ一時間以上、飛んでいる。
 今、瀬戸内海上空だ。視界の前方に、九州の一部が見えてきた。
 全力で飛んでも、私達のスピードでは到着まで二時間はかかる。
 おまけに、途中で食事を取るために二度ほど着陸した。
 私は事の重大さに気圧され、食欲が湧く余地などないの。でも、陸くんはそうでも
ないらしい。
 だけど、陸くんもピクニック気分で飛んでいるわけではないようだ。
 いつもの救助要請の場合、私の緊張を解す為、飛行中に他愛ない話をしてくれる。
 でも、今日は一言も発していない。陸くんも緊張しているんだ。
 それもその筈で、谷田部首相からソラシドレスキューへの出動要請は受けたけど、
具体的に何をするのかは知らされていない。
「セルベルク危機から人類を救うため……」と谷田部首相は語った。
 それはどういう意味なのか。
 私達の力で、人々を運ぼうというのだろか?
 それとも、巨大なシェルターを作るというのだろうか?
 あるいは、衝突が起きた後の世界で、やるべき事があるのだろうか?
 私には、分からない。
 陸くんも、私と同じで救助要請の内容に想いを巡らしているのだろう。
 二人は、無言のままで雲の上を飛びつづけた。