五分ほど歩くと自宅に着く。
「ただいま」
 出来るだけの慎重さをもって、我が家のドアを開ける。
「お帰りー。今日は遅いのねー」
 うあぁぁぁ。やっぱり、お母さん居たー。
 てか、この時間なら居て当然なんだけど。
「うん。ちょ、ちょっとねー」
 出来るだけの平静さを装って玄関を上がり、足を忍ばせてバスルームへ向かう。

「どうしたの? 今日は遅くなって?」
 ううっ。隠すより現るとは、正にこの事だ。
 いつもの私なら、帰って来るなり冷蔵庫に直行して、明日からのダイエットを誓い
ながらプリンを飲み干す。
 ところが、今日に限って黙ってバスルームに行こうとするのだから、怪しまれても
仕方がない。
 お母さんが、キッチンから私の元にやって来る。
「あらっ!! どうしたの、膝から下が泥だらけじゃないの」
「えーと。ちょっとイロイロありまして」と胡麻化すが、
「その、イロイロってのを、ちゃんと聞かせて頂戴」と返された。

 やっぱ、そうなるか……。
「実は……」と、先ほど遭遇した自動車事故の顛末を語って聞かせる。
 当然、自動車が宙に浮いた下りは話さずにおいたけれど。