翌日は、恐ろしい程に静かだった。
 車が一台も走っていない。道を行く人影もない。
 新聞は配達されていなかった。
 幸いにも、電気とガスは使えた。
 その一方で、電話とインターネットは異常に繋がりにくかった。
 昨日の夜も、お父さんに幾度も電話したけど、回線が塞がっている旨の合成音声が
繰り返されるばかりで、一度もつながらなかった。
 テレビでは、昨夜の谷田部首相の非常事態宣言と、国内の反応を伝えるニュースが
繰り返されている。
 セルベルクの軌道を独自に計算して落下場所を予想する番組。
 情報の少なさを怒り国会に殺到する人々と、それを排除する人々の小競り合い。
 大荷物を抱えて駅に集まる人々。この人たちは、何処へ逃げようというのだろう。
 私たちは何をすれば良いのか、政府は何をやっているのか、世界で何が起きている
のか、全ての情報が決定的に欠乏していた。

 お母さんと二人で朝食を食べる。二人とも無言だ。何の味も、香りもしなかった。
温かみすら、感じなかった。