首相の言葉を、私は別な次元で語られるお伽噺のように聴く。
 私達の明日が無くなるんだ、私達に未来は来ないんだ。
 その言葉だけが、空っぽになった胸の中を満たしていく。
 体から空気が抜けてしまったような虚無感に襲われる。
 心臓も鼓動を忘れてしまったかのようだ。
 余りの事の重大さに、頭の中が混沌とした灰色になり、何の感情も湧かない。
「美幸」
 お母さんに声をかけられた。
「お母さん」
 母の胸に飛び込む。
 感情が戻って来た。私は、お母さんの胸の中で声を上げて泣いた。
 私の髪をお母さんが、優しく梳る。
 この感触さえ、もうすぐ、永遠に感じることが出来なくなるなんて……。