「国民の皆様。内閣総理大臣の矢田部です」
 矢田部首相が話を始める。
「これから、お話し致しますのは、日本国民のみならず全人類の将来に関わる重大な
内容です。ただ今、他の国々におきましても、同じ発表がなされているところです。
国民の皆様に置かれましては、事の重大性を十分にご理解の上、くれぐれも刹那的に
なることなく、慎重に行動して頂きますよう、予めお願いいたします」

 一体全体何だというのだ。本題の話を始める前に、刹那的になるな、とか、慎重に
行動するように、とか念を押している。よっぽど驚天動地の話なのだろうか?

 矢田部首相が話を続ける。
「今から、152時間前、地球の軌道付近で二つの小惑星が極めて近距離で接近遭遇
する天文現象が起こりました。この結果、二つの小惑星の軌道がカオス的に変化し、
そのうちの一方が、地球に接近するコースを辿っています」

 私は息を呑む。
 地球に接近するコース? それって、まさか……。
「セルベルクと名付けられた、その小惑星は今から72時間後、地球と衝突します。
セルベルクは、直径が約1200メートル。衝突が起こった場合、衝突地点は瞬時に
蒸発し、直径10キロのクレーターが生じます。衝突に伴う、巨大地震、巨大津波に
より、空前の地域的荒廃が生じます。衝突で舞い上がった粉塵で太陽光が遮断され、
人類の生存が脅かされるほどの、全地球規模の天候異変が生じます」