さて、落ち着いて部屋を見渡すと、陸くんが居ないことに今更ながら気が付いた。
「あの、陸くんは?」と問うと
「それが、まだ来ていないのよ」とシーちゃんが顔を顰める。
 それは珍しい。最近では、陸くんが一番乗りでやって来ることが多いのに。
 どうしたんだろう。昨日まで変わった様子はなかった。
 それに、陸くんが臍を曲げそうな事件も起こっていない筈だし……。

 などと思っているところに、噂をすれば何とやらで話題の主が姿を現した。
「ごめんごめん。遅くなって」と息せき切って入ってくる。
「どうしたの?」
「……んんん。それが……。ネロが居なくなったんだ」
「ネロが?」
「うん。毎朝、部屋のベランダにやって来るんだけど、今日に限って来なかいんだ」
「それで、ネロが来るまで待ってたの?」
「そうなんだ。毎朝、餌を上げる習慣になってるんで……」

「ちょっと、ちょっと。なに二人でしっぽり話し込んでるのよ。ネロって何よ」
 シーちゃんが二人の間に割って入る。
「ネロっていうのは、陸くんの友達の白いカラスの事」と応える。
「あーっ。陸くんの飼ってるカラスね」
「「飼ってるんじゃなくて、ト・モ・ダ・チ」」
 貯水塔の一件を思い出し、友達であることを強調してみせる。
「なに。ナニ。何。どうして上手い具合にハモってるの。ねぇねぇ、何があったの?
二人の間に?」
 シーちゃんに突っ込まれて、陸くんと私は、えッと言って顔を見合わせた。