ガラガラガラ。
 玄関の戸が勢いよく開いた。
「ただいま。天野さん、来てる?」
 ドタドタと小走りする音が聞こえ、応接室のドアが開いた。
「天野さん!」
 ゼイゼイと肩で息をする陸くんが飛び込んでくる。
「陸くん」私は立ち上がって陸くんと対峙する。
「陸くん。あの……」と言って、私は固まった。
 私達の仲間に戻って……。
 そう伝えるために来たのに、次の言葉が出ない。

 記憶喪失で人付き合いの苦手な陸くんにとって、ソラシドレスキューでの活動は、
苦痛を感じる物なのかも知れない。
 人を救いたい、という私の思いに、陸くんを巻き込んでいる。
 それが、陸くんにとって、どういう意味なのかを考えていなかった。
 人を救いたいと望みながら、目の前の陸くんを、救ってはいなかった。
 後悔と悲しみが、胸の奥から湧きだしてくる。

 気がつくと、私の頬は涙で濡れていた。
「えっ? えっ? えっ? どうしたの急に?」と陸くんが驚く。
「天野さん。大丈夫?」陸くんのお母さんが立ち上がって私の背中をさする。
 私は急いで涙を拭い「すいません。大丈夫です」と答える。

「天野さん。あとは二階で話そう」
「陸。天野さん、このままで大丈夫なの」
「大丈夫だよ。母さん。これから大事な話しがあるんだ。悪いけど、暫く二人きりに
して貰えるかな」
「それは良いけど」
「じゃあ、天野さん。二階で話そう」
 
 陸くんに連れられ、二階にある陸くんの部屋に通された。
 ベッドと勉強机、造りつけの本棚と箪笥だけの簡素な部屋だ。飾りといえるのは、
壁に貼られた白カラスの写真くらいだ。男の子の部屋って、みんなこんななのかな。