今朝も、空を飛ぶ夢を見た。

 空を飛ぶ夢は、自由への憧れを表している。
 そんな話を聞いたことがある。
 でも、私のそれは違う。
 それは願望などではない、私の記憶なのだ。
 そう、且つての日、私は自分の力で空を飛んでいた。

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 大地に立ち、空を見上げる。
 宙《そら》へ……。そう心に強く念じる。
 体の中に熱い渦が湧きおこる。体が軽くなる。

 次の瞬間、私は空に飛びたつ。全身がGジーを感じる。 
 ビルを飛び越え、地上があっという間に遠ざかっていく。
 鳥たちの傍らを掠め、雲を突き抜け、ジェット旅客機に手を振る。

 眼下に広がる町並み、山や川が箱庭のように見える。
 その景色が、次々に後方に飛び去って行く。
 心が急いている。早く、そこに向かわなければ。
 皆が待っている。私の到着を、皆が心待ちにしている。

 *****

 且つて、これが私の日常だった。
 何故、どうして私は飛べるのか。何のために、飛んでいたのか。
 そして、何時、何があって、飛ぶことを忘れてしまったのか。
 全ては忘却の霧の向こうに消えた。

 けれど、一つだけ覚えている事がある。
 それは、私が空にあるとき、一人ではなかったという事だ。

 でも、私の傍らにいたその人を、私は思い出すことが出来ない。
 私がその人と共に空にあった事実は、忘れ得ぬ想いとして、胸の奥底に刻みつけられているというのに。
 嗚呼、あなたは誰? あなたは何処にいってしまったの?


 これは、私の記憶を辿る、心の旅の物語である。