弟の玲央は、外来受付から離れた整形外科病棟に入院しているのに、気弱そうな看護師さんに車椅子を押させて、ほぼ毎日、私を冷やかしに来た。
玲央は、片足で飛び跳ねながら病院を脱走したり、車椅子でウイリーをやって吹っ飛んで、看護師長さんに大目玉を食らったり……。
骨を固定していたボルトが曲がって、もう取れなくなったりと、とにかく問題児だった。
それだけで迷惑なのに、毎日毎日、様々な顔ぶれの看護師さんに車椅子を押させて、ニヤニヤしながら「あれ、俺の姉ちゃ~ん」とお披露目しにくる始末。
お陰で、実習生なのにちょっとした有名人になってしまった。
そんなある日、弟がかわいい女子高生に車椅子を押してもらっていた。
玲央の病室には、いつも中学校の悪友やオシャレな女の子が押しかけていて、足のギプスにもメッセージが満載だったけれど。
わちゃわちゃしている中学生たちの中、高校生のその子は一段とかわいくて、少し落ち着いていた。
いつも夕方に制服のまま病院に来て、面会時間終了の少し前に帰っていくその子。
玲央に聞いたら、お祖父ちゃんが入院していて、お見舞いに来ているらしい。
そこで、運悪く弟に捕まってしまったみたい。
ナンパもいい加減にしなよ~って言ったけれど、怜央には珍しく、ちょっと本気みたいだった。