数日後、賢介は結婚相談所の担当カウンセラー、児島にメールを打った。

〈児島さま
お世話になっております。
まことに心苦しいのですが、
今月で相談所を退会したくメールをさしあげました。
お手数ですが、手続きをよろしくお願いします。
石神〉

 退会の連絡に、児島から即レスポンスがあった。

〈石神さま
こちらこそお世話になっております。
メール拝見しました。
退会ご希望とのことですが、
石神様からはすでに1年分会費を頂戴しております。
ご入会1年まではまだ半年以上ある上、
ご返金できない契約になっております。
このまま会員資格を継続されてはいかがでしょう。
再度ご検討いただければ幸いです。
児島〉

 賢介もすぐにメールを返した。

〈児島さま
お気遣いいただき、
ありがとうございます。
会費のことは承知しております。
ご返金の必要はありませんので、
退会の手続きをお願いいたします。
石神〉

 送信のアイコンをクリックすると、ほどなく児島からの電話がかかってきた。
「石神さん、そんなにあわてて辞めなくてもいいじゃないですか。うち以外の場所で彼女ができたんですか?」
 児島は早口で説得する。
「会っている女性はいます」
「交際しているんですか?」
「いえ。交際にはいたっていません」
「ならば、相談所は退会しないほうがいいのでは。失礼ながら、その女性と結婚できるかどうかわからないじゃないですか」
 児島の言うとおりだ。
「ええ。でも、相談所に籍を置いたままにしていると、僕はダメな気がして」
「どういうことでしょう?」
「女性と知り合っても、初対面同士ですから、ちょっとした心の行き違い、いくらでもありますよね。その時に相談所に入っていると、また別の人とお見合いすればいいか、って思ってしまいます」
「そういう気持ちにならないように、石神さんは退会したいと」
「はい」
「辞めなくても、休会という選択肢もありますけれど」
「それも考えました。正直な気持ちを打ち明けると、児島さんのおっしゃるとおり、辞めないほうが有利だとは思います。でも、きっと僕、うまくいかないですよ」
「そうですか……。では、今月いっぱいで退会の手続きをします。もし月内にお気持ちが変わったら、その時はご連絡ください。継続にしますから」
「はい。ありがとうございます」
 賢介は電話をきった。