「おー!」
 結婚相談所に入会して自宅のパソコンで初めてホームページを開いた時、賢介は思わず声をあげた。画面にずらりと現れた女性会員の写真が圧巻だったのだ。モデルのカタログをながめているようだ。
女性はワンピースかスーツ、大きく二派に分かれる。色は白とピンクが主流で、ときどきネイビーがいる。ほぼ全員がカメラ目線で微笑んでいる。プロのカメラマンがスタジオで撮影したのだろう。
さっそく結婚相談所の担当カウンセラー、児島に電話をかけた。
「もしもし。女性のプロフィールのサイト、開けました」
「いかがでしょう?」
「質量ともに満足です」
「それは何より。では、石神さん、画面を見ながら一緒にシステムを確認していきましょう」
児島の年齢は四十一歳と聞いていた。自分も独身男のくせに、「プロの婚活カウンセラーの見解としては、結婚願望の強い女性はですねえ」と自信満々にアドバイスする。
入会面談の際、彼が真っ白のスーツで現れたのには驚かされた。顧客をサポートする立場の自分が目立ってどうするのだ。
〈人生を左右する婚活をこの自意識過剰男に任せていいのだろうか〉
不安を覚えたが、始める前から担当を替えてほしいと頼むのも大人気ない。
 賢介と児島は、おたがいパソコンの画面を見ながら、電話でホームページの使い方を確認していく。女性のプロフィールの見方、希望する女性の検索法、見合いの申し込み方……などだ。
「今日から画面の女性たちにお見合いを申し込んでもいいんですか?」
 児島に訊く。
「もちろんです。じゃんじゃんアプローチしちゃってください!」
 そう言われて、まだ申し込んでもいないのに、全員とお見合いできる気になった。
 女性の写真はみんな上品だ。しかし、よく見ると作りこまれている。
目鼻立ちがくっきり写るように陰影のあるメイクをしたり、しわが目立たないようにソフトフォーカスで撮影されていたり。おそらく画像上でも、頬をシャープにするなど加工が施されているだろう。ほうれい線を消したのか、妙にのっぺりした顔の女性が目立つ。背景も服装同様白や淡いピンクが主流だ。観葉植物が置かれている写真が多かった。
「女性会員の皆さんですが、実物もこんなにきれいなんでしょうか?」
 感じたことをがまんできずに口にしてしまう性格は小学生の頃から変わっていない。
「さあ、それは私にはなんとも……」
 児島は歯切れが悪い。
「実際に会ったら、顔が違っていることもありますか?」
「七掛けくらいまではご容赦いただきたいと……」
 やはり写真は加工されているのだ。
「別人のような女性が表れたら、チェンジはありですか?」
「いけません! 私どもはそういう種類のお店とは違いますので」
 電話の向こうは急に強い口調になった。
「そうですか……。ならば、どこまで写真を作りこんでいるか、見破る方法はありますか?」
「それはスキルを磨いていただくしかないかと」
「スキルを磨く……」
「はい。ご自分の目を鍛えてください」
 児島はきっぱりと言った。
電話を切り、賢介の期待と不安相半ばの婚活はスタートした。