「石神、婚活は順調?」
友人の近藤は取材現場で会うと必ず訊く。最近はこれが挨拶代わりになっている。
近藤はさっきまで七歳上のロックギタリストと対談をしていた。その会話を四ページの記事にまとめるのが賢介の仕事だ。
「だめだ」
賢介は答えた。
「プロフィールの写真、撮り直したんだろ?」
「ああ」
「まったくだめか?」
「いや、おかげさまで、ぽつぽつと見合いの申し込みはもらえるようになった」
「じゃあ、いいじゃないか」
「オレが魅力を感じる人からはほとんど申し込まれない。オレが申し込む相手からは断られ続けている」
結婚相談所に登録して二か月で、賢介が自分から申し込んで見合いが成立したのは、いまだに沙紀一人だった。一か月に申し込める限度数二十人の権利をフルに行使した。つまり、二か月で一勝三十九敗の成績である。その一方で、女性から申し込まれた見合いも断るばかりだ。二か月で十二人から申し込まれ、会ったのはケーブルテレビの花園恵とアニメ系のシンガーソングライターの風祭さやか二人である。さやかとは見合いの後、二度食事をしていた。
「石神の申し込みを断る女たちも、ほかのだれかとは見合いをしているんだろう?」
「たぶん」
「どんな男が人気なんだ?」
「相談所のスタッフによると、年収が一千万円を超えていて、しかも安定した収入がある男に人気が集中しているらしい。高収入に加えて見た目がよければ、もてまくりだ」
しかし、高収入でなおかつ容姿のいい男などひと握りもいない。そもそも日本人の平均年収は四十代前半で約四百六十万円。生涯年収のピークを迎える五十代前半で約五百万円と新聞で読んだことがある。一千万円を超え、さらにシングルなど、砂漠とまではいわないが、砂場で一円玉を探すくらいの可能性だ。そんなごく少数がいい女を独占し、その他大勢は勝算のない婚活戦線を戦い続ける。
「条件のいい男は、早く相手を見つけて、退会しないのか?」
近藤が訊く。
賢介も最初は同じように考えた。しかし、現実はそうはなっていない。
「近藤、もしお前が次々といい女と食事できたら、すぐに決めて退会するか?」
「……やめないな」
「会い続けるだろ?」
「なるほど。条件に恵まれた一部の男が入れ食い生活を満喫しているというわけか。けしからんな」
「おかげでこっちは婚活難民だ」
二人はしばらく黙ってコーヒーを飲んだ。
「婚活難民かあ……。実際、可能性は感じないのか?」
やがて近藤が口を開いた。
「わからん。でも、そのうちオレみたいな男がいいと言うマニアックな女が現れてくれないかと、かすかに期待はしている」
「お前を好む女はマニアなのか?」
近藤が表情を崩す。
「マニアだろう。五十歳、バツイチ、フリーライターだぞ。三重苦と言っていい」
「三重苦は卑下し過ぎだろう」
「現実だよ」
「そうか……。悲しいなあ」
「悲しいよ。たぶん、女はメスとしての本能で、自分と将来生まれてくるかもしれない自分の子を守るために経済力のあるオスを求めるのだと思う。そして男は、オスとしての本能で、自分のDNAを健康な状態で残すために若いメスを求めるんじゃないかな」
友人の近藤は取材現場で会うと必ず訊く。最近はこれが挨拶代わりになっている。
近藤はさっきまで七歳上のロックギタリストと対談をしていた。その会話を四ページの記事にまとめるのが賢介の仕事だ。
「だめだ」
賢介は答えた。
「プロフィールの写真、撮り直したんだろ?」
「ああ」
「まったくだめか?」
「いや、おかげさまで、ぽつぽつと見合いの申し込みはもらえるようになった」
「じゃあ、いいじゃないか」
「オレが魅力を感じる人からはほとんど申し込まれない。オレが申し込む相手からは断られ続けている」
結婚相談所に登録して二か月で、賢介が自分から申し込んで見合いが成立したのは、いまだに沙紀一人だった。一か月に申し込める限度数二十人の権利をフルに行使した。つまり、二か月で一勝三十九敗の成績である。その一方で、女性から申し込まれた見合いも断るばかりだ。二か月で十二人から申し込まれ、会ったのはケーブルテレビの花園恵とアニメ系のシンガーソングライターの風祭さやか二人である。さやかとは見合いの後、二度食事をしていた。
「石神の申し込みを断る女たちも、ほかのだれかとは見合いをしているんだろう?」
「たぶん」
「どんな男が人気なんだ?」
「相談所のスタッフによると、年収が一千万円を超えていて、しかも安定した収入がある男に人気が集中しているらしい。高収入に加えて見た目がよければ、もてまくりだ」
しかし、高収入でなおかつ容姿のいい男などひと握りもいない。そもそも日本人の平均年収は四十代前半で約四百六十万円。生涯年収のピークを迎える五十代前半で約五百万円と新聞で読んだことがある。一千万円を超え、さらにシングルなど、砂漠とまではいわないが、砂場で一円玉を探すくらいの可能性だ。そんなごく少数がいい女を独占し、その他大勢は勝算のない婚活戦線を戦い続ける。
「条件のいい男は、早く相手を見つけて、退会しないのか?」
近藤が訊く。
賢介も最初は同じように考えた。しかし、現実はそうはなっていない。
「近藤、もしお前が次々といい女と食事できたら、すぐに決めて退会するか?」
「……やめないな」
「会い続けるだろ?」
「なるほど。条件に恵まれた一部の男が入れ食い生活を満喫しているというわけか。けしからんな」
「おかげでこっちは婚活難民だ」
二人はしばらく黙ってコーヒーを飲んだ。
「婚活難民かあ……。実際、可能性は感じないのか?」
やがて近藤が口を開いた。
「わからん。でも、そのうちオレみたいな男がいいと言うマニアックな女が現れてくれないかと、かすかに期待はしている」
「お前を好む女はマニアなのか?」
近藤が表情を崩す。
「マニアだろう。五十歳、バツイチ、フリーライターだぞ。三重苦と言っていい」
「三重苦は卑下し過ぎだろう」
「現実だよ」
「そうか……。悲しいなあ」
「悲しいよ。たぶん、女はメスとしての本能で、自分と将来生まれてくるかもしれない自分の子を守るために経済力のあるオスを求めるのだと思う。そして男は、オスとしての本能で、自分のDNAを健康な状態で残すために若いメスを求めるんじゃないかな」