チャイムを押すと、案の定大桃が出てきてくれた。
「う、植松くん?」
かなり驚かせてしまったようだ。そりゃあそうだろう。俺は、大桃がここにいることを本人からは教えられていないんだから。
「しつこくて、ごめん。今、大桃がここにいるって隣の人から聞いたんだ。あの、本当にごめんな!」
俺は、頭を下げて大桃に謝った。
「ううん。わたしこそ逃げちゃって……」
大桃が言った。良かった、許してくれないだろうと思っていた。こんなにしつこく来られたら、彼女だっていい気はしないだろうから。
「さっきの振られたって話聞いてもいい?」
俺が聞くと、大桃は心配そうな顔になった。
「暗い話だけど……」
「平気」
俺は、大桃の暗い声を遮った。
とにかく俺はその頃、大桃を1人で抱え込ませるという、苦しいことをさせたくなかった。