息子の姿を思い浮かべ、私は雨宿りをやめた。
中に入れたスマホを濡らさぬよう、鞄を両手で抱き締め、雨の中を小走りに駆け出した。
前髪から滴り落ちる雫で視界は悪く、途中狭い路地で前から走って来る車にクラクションを鳴らされた。
ーーハァ。
肩でひとつ息をして、思わず立ち止まる。
危なかった、と思い、不意に夫の事を思い出した。
五年前。夫は会社からの帰宅途中で事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
あの日も朝から晩まで、雨が降り注いでいた。
夫はその日、今の私と違って黒い傘を差して歩いていた。
元来から真面目な性格で交通ルールも破った事が無い。深夜、車ひとつ通らない交差点でも馬鹿みたいに信号待ちをしてしまう人だ。
それなのに事故に遭遇した。その日差していた黒い傘は骨が折れて所々が破れ、ボロボロになっていた。
残された私と息子は、あの日からの日々をがむしゃらに生きてきた。
中に入れたスマホを濡らさぬよう、鞄を両手で抱き締め、雨の中を小走りに駆け出した。
前髪から滴り落ちる雫で視界は悪く、途中狭い路地で前から走って来る車にクラクションを鳴らされた。
ーーハァ。
肩でひとつ息をして、思わず立ち止まる。
危なかった、と思い、不意に夫の事を思い出した。
五年前。夫は会社からの帰宅途中で事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
あの日も朝から晩まで、雨が降り注いでいた。
夫はその日、今の私と違って黒い傘を差して歩いていた。
元来から真面目な性格で交通ルールも破った事が無い。深夜、車ひとつ通らない交差点でも馬鹿みたいに信号待ちをしてしまう人だ。
それなのに事故に遭遇した。その日差していた黒い傘は骨が折れて所々が破れ、ボロボロになっていた。
残された私と息子は、あの日からの日々をがむしゃらに生きてきた。