ノリノリで下校する福田と山根に山口の件を言いそびれ、帰宅後に待ちうけていたのはお母さんの入院だった。
これで何回目だろう。身体の弱い人なので、こういう事が昔からある。
『数日で帰れると思います。数値が少し落ちただけだから心配しないで。迷惑かけてごめんね』
簡単な手紙が置いてあって、代わりにお母さんの入院用鞄がなくなっていた。入院先は山口総合病院で、実は山口の親戚。
トトロの有名なシーンで「お母さんが死んじゃったらどうしよう」ってさつきちゃんが泣くところ、私にはいつもリアルだ。一気に憂鬱になったけれど、すぐに着替えて病院に行った。お母さんのウォークマンも充電して持っていく。
「ありがとう。退屈してたの」
横になったお母さんは点滴を受けてはいたけれど、思ったより元気そう。ちょっと安心。
「どっか苦しい?」
「大げさに見えるけど大丈夫よ。大事な時期なのに本当にゴメンね」
家事は程々にね、お父さんと仲良くね、いつもの様に細々言われる。
「すぐ退院するから。今日はもう帰りなさい。暗いから気をつけて」
うん、また明日ね、と手を振って部屋を出た。
廊下に出るとすぐ、またさつきちゃんの気持ちが降りてきた。俯いて廊下をコソコソ歩く。そうしたら通路を間違えて、気付いたら手術室の前に出てしまった。
(なんでこんな所に来ちゃったの?)
めっちゃ焦った。夕方の誰もいない手術室の前はとんでもなく恐い。特にこの病院は手術室の横に観音様があって、きっと手術の無事を祈る御家族の為になんだろうけど、今の私にはひたすら不気味で悲しげで辛いばっかり。
本当に泣きそう。悲し過ぎる。逃げるように必死で戻った。
散々うろうろして、ようやく新館の総合ロビーに到着。最近この病院は増築工事中のせいで迷路みたい。
どっと力が抜ける。ソファに腰をおろす。でも少しでも気を抜くと、すぐまた「お母さんが死んじゃったらどうしよう?」ってなる。
急いで(違う違う!)って、アタマをぶんぶん振る。
(はあ、今の私、ものすごく変だ)
こんな時はハッピーな事を考えよう。最近脳内再生率ナンバーワンは大澤君の事。今日のサムライスイッチを思い出してみる。
(カッコよかったなあ、大澤君)
それから河合君も。私もあんな風になりたいな。
年下なのに二人とも大人みたい。目を閉じて今まで見た素敵シーンも順番に思い出す。ネットニュースで見た試合でのジャンプシュート、数々のフェイント、連携プレー、何より速攻。それから……美術室で初めて至近距離で見た、めちゃ可愛いスマイル。
ああ、段々気分が上向きになってきた! うん、なんかもう大丈夫かも、私。
(でも山口も惚れちゃったみたいだったな)
あれ? どうしてこんな楽しくない事まで今思い出すんだろ。
でも山口こそ進路は大変そう。小さい時から優秀だから高校受験は余裕だろうけど、親戚にこんな病院がある立場なんて、福田より色々言われてそう。あれ、私ったら、敵に塩を送ってる? 送らないけど。
さあ、そろそろ家に帰ろう。気分転換の総仕上げは苺ミルクだ。コンビニに寄って大好きドリンクを買って帰ろう。私なりのサムライスイッチだ。切ない日には甘いモノだもの。
そして私はココロの中でお礼を言うよ。
「神様ありがとうございます。今日、このコンビニに寄ってよかったです。おかげでお母さんの件は吹っ飛びました。ありがとう、ありがとう、全ての神様ありがとうー!」
脳内大絶叫だよー。何があったって? えへへ。店内では河合君がお買い物の真っ最中なのです。なんということでしょう!
ゲンキンだと笑いたくば笑ってください。大澤君はいないけど、幸せポイント十倍です! 河合君のラフな姿が見られるなんて、それだけでリラクゼーション満載です!
彼は今、量販店のぶかぶかジャージ。パジャマみたいでカワイイ。で、すごい量の買い物。飲み物とかお菓子とか、カゴに山盛り。何の買い出しかな。一年だから先輩達の……あれ、でも待って、河合君がなんで買い出し?
氷川バスケ部のルールは昔から独特で、確か完全実力制。大澤君と河合君は栄光のスタメンだから、下級生でもマネージャ用事はしなくていい筈。頭の中でハテナが回る。苺ミルクを握って棒立ちのまま、うっかり凝視し河合君に気付かれ、間が悪くて困った事に。
(わーどうしよう?)
目が、目が合ってしまう。今更隠れる訳にもいかないし。地域の住民的にピンチ。
だけど実質モテる人は違う。
「こんばんは」
ニッコリ笑って挨拶してくれるんだ。私の事なんか知らない筈なのに。
まさかの展開にキョトンとして、また失礼だった。それに私がトリップしているものだから、河合君、戸惑ってるし。
「ええと、この間も美術室で」
恐る恐る声を掛けられ我に帰る私。常識的にピンチ。
慌てて「こんばんは」って言って、それから「荷物びっくり。すごい量」なんて。とってつけたように付け加えた。わざとらしいね。
「誕生会の買い出しです。部の先輩にサプライズするから新商品を探しに」
「そうなんだ。楽しそうだね」
無駄に焦って、かろうじてカゴを見ながら言った。
「運動部の買い出しって、やっぱスゴい量だね」
ああ、もっと気の利いたこと言えればいいのに。私センス無いなあ。
気の利いたことって何だろう。
「ええと……いつも沢山頑張ってるね」
残念。この程度だ。コレ位しか私には、無理。
「あ、ありがとうございます」
その後は妙な沈黙。
恥ずかしさに耐えきれなくて、曖昧に「じゃあ」と呟いてレジに行こうとしたら、河合君、
「あのこれ、よかったら使ってください」
私に割引券をくれた。ドリンクオール二十円割引。時々このコンビニが配るクーポン券だ。
戸惑う私に「ラスト一枚なんで、良かったら」と、ニッコリ笑ってくれる。なんかドキドキする。
「でも悪いよ」
「いいすよ」
またニコ、と笑うんだもの。「どうぞ」って。
勿論いただきました、そのクーポン券。宝物にしたかったけど、まだ店内に河合君がいるし。ありがたく苺ミルクを二十円引きで購入ナリ。
そうしたら、神様って本当によく見てるんだ。私のポイントカードが貯まっていて、レジで景品のアポロチョコが頂けちゃった。これは河合君の分だよね。だから買い物を続ける河合君に渡した。「クーポン券のお礼」って。悪いからいいですって言われたけど、無理矢理ポケットに入れてしまった。
「嫌いなお菓子だったらごめんね」
私、オバちゃんだったなあ。
「なんなのー朝から一人でニヤニヤー」
「キモっ。岩野田めっちゃキモー」
ええ、その通り。本日の私は朝からかなり怪しかった。でも話すと二人にかなり妬まれそう。『一日無視の刑』にもされそう。それに話すと幸せが減りそう。わーんどうしようー。
「ああ、またニヤニヤー」
「もー岩野田まじキモいー」
えへへ。だって昨日あの後も、とても良いものを見てしまったからなのです。河合君より先にコンビニを出た私、たまたまこちらに向かう大澤君ともすれ違えたのです。
大澤君も河合君とお揃いのぶかぶかジャージで、すごい量の荷物を両手に持っていた。お揃いジャージは某量販店の二組割引かな。やっぱりパジャマっぽくてめっちゃ可愛い。
だけど大澤君は当然、私には気付かなかった。美術室にいた三年なんて普通はいちいち憶えていない。でもそれが正常、河合君の反応がラッキーだ。
成り行きも見たくなって、反対車線の歩道から、こっそり彼等を眺めてみた。
河合君はコンビニから出てくると直ぐに、私があげたアポロチョコを大澤君に見せていた。そしたら大澤君、しゃがんでクチを開けて待つんだもの。あーん、て。河合君も開封して、クチの中にざざーってチョコを流し込むんだもの。それで(あ、入れすぎた)って顔して、容器を覗いて中身を確かめるんだもの。
(きゃあああああ二人とも可愛いいー……)
ひとりで悶絶した。河合君がちゃんと残りをポケットにしまっていたのが嬉しかった。大澤君の顎がワシワシ咀嚼するのもわかって、その横を河合君は飄々と歩いて……ふう、なんていいコンビなの。苺ミルクの入った小さなビニール袋が、北風でカサカサ同意した。
「岩野田、マジ変!」
「おーい帰ってこーい。その川渡るなー」
また妄想トリップしていたみたい。
「もう白状しなよ」
呆れられているので話す。でもそうなるとお母さんの件も話してしまう。二人に気を遣わせてしまう。
「掃除当番代わろうか」とは福田。「買い物の荷物持ちも手伝うよ」とは山根。
「お気持ちだけでいいよ。いつもありがとう」
感動の友情ストーリーになってしまう。
「じゃあ大澤チェック、岩野田の分もしといてあげるね」
「うん、いつでも遠慮なく帰っていいからね」
「いえ結構!」
それは謹んでお断り致します。
だからお菓子の話、羨ましがられるやら嫉まれるやら。
でもね、昨日のサムライスイッチから、二人は大進化したのです。
まず福田はポニテを卒業してオトナ可愛いショートボブにした。「もうママの言いなりにはならない」って。ウンウン。マジ似合うし可愛いし、何より瞳がキラキラしてる!
山根も『無駄に怒らない』事にしたって。偉いなあ。元々筋の通った山根だ。益々カッコいい。よし、私もがんばるぞ。何を? でもがんばるぞ。何をだろう?
もうすぐ師走。どんどん寒くなるけれど、本日もモブ活開始。
「だって今のうちだもん」
「今日も素敵集団!」
「うっとりだよねー」
今日の大澤君は素肌にジャージだった。寒くないのかな。でも前がはだけると着物を着崩したみたいで、一段とサムライに見える。
それから内緒でそうっと、河合君の事もチェックした。河合君も恰好いい。小柄で機敏で、韋駄天とか子天狗とか牛若丸とか、なんていうか、そういう感じ。イマドキの流行りイケメンとは違うけど、そこがまたうんといい。でも私は別に何にもしないし、追っかけもしない。ただ見てるだけ。私の唯一の長所は、自分をわきまえている所だもの。
それから山口も、またバスケ部を見ていた。でも今日はこの間より離れて、中校舎の二階の窓から。
これで何回目だろう。身体の弱い人なので、こういう事が昔からある。
『数日で帰れると思います。数値が少し落ちただけだから心配しないで。迷惑かけてごめんね』
簡単な手紙が置いてあって、代わりにお母さんの入院用鞄がなくなっていた。入院先は山口総合病院で、実は山口の親戚。
トトロの有名なシーンで「お母さんが死んじゃったらどうしよう」ってさつきちゃんが泣くところ、私にはいつもリアルだ。一気に憂鬱になったけれど、すぐに着替えて病院に行った。お母さんのウォークマンも充電して持っていく。
「ありがとう。退屈してたの」
横になったお母さんは点滴を受けてはいたけれど、思ったより元気そう。ちょっと安心。
「どっか苦しい?」
「大げさに見えるけど大丈夫よ。大事な時期なのに本当にゴメンね」
家事は程々にね、お父さんと仲良くね、いつもの様に細々言われる。
「すぐ退院するから。今日はもう帰りなさい。暗いから気をつけて」
うん、また明日ね、と手を振って部屋を出た。
廊下に出るとすぐ、またさつきちゃんの気持ちが降りてきた。俯いて廊下をコソコソ歩く。そうしたら通路を間違えて、気付いたら手術室の前に出てしまった。
(なんでこんな所に来ちゃったの?)
めっちゃ焦った。夕方の誰もいない手術室の前はとんでもなく恐い。特にこの病院は手術室の横に観音様があって、きっと手術の無事を祈る御家族の為になんだろうけど、今の私にはひたすら不気味で悲しげで辛いばっかり。
本当に泣きそう。悲し過ぎる。逃げるように必死で戻った。
散々うろうろして、ようやく新館の総合ロビーに到着。最近この病院は増築工事中のせいで迷路みたい。
どっと力が抜ける。ソファに腰をおろす。でも少しでも気を抜くと、すぐまた「お母さんが死んじゃったらどうしよう?」ってなる。
急いで(違う違う!)って、アタマをぶんぶん振る。
(はあ、今の私、ものすごく変だ)
こんな時はハッピーな事を考えよう。最近脳内再生率ナンバーワンは大澤君の事。今日のサムライスイッチを思い出してみる。
(カッコよかったなあ、大澤君)
それから河合君も。私もあんな風になりたいな。
年下なのに二人とも大人みたい。目を閉じて今まで見た素敵シーンも順番に思い出す。ネットニュースで見た試合でのジャンプシュート、数々のフェイント、連携プレー、何より速攻。それから……美術室で初めて至近距離で見た、めちゃ可愛いスマイル。
ああ、段々気分が上向きになってきた! うん、なんかもう大丈夫かも、私。
(でも山口も惚れちゃったみたいだったな)
あれ? どうしてこんな楽しくない事まで今思い出すんだろ。
でも山口こそ進路は大変そう。小さい時から優秀だから高校受験は余裕だろうけど、親戚にこんな病院がある立場なんて、福田より色々言われてそう。あれ、私ったら、敵に塩を送ってる? 送らないけど。
さあ、そろそろ家に帰ろう。気分転換の総仕上げは苺ミルクだ。コンビニに寄って大好きドリンクを買って帰ろう。私なりのサムライスイッチだ。切ない日には甘いモノだもの。
そして私はココロの中でお礼を言うよ。
「神様ありがとうございます。今日、このコンビニに寄ってよかったです。おかげでお母さんの件は吹っ飛びました。ありがとう、ありがとう、全ての神様ありがとうー!」
脳内大絶叫だよー。何があったって? えへへ。店内では河合君がお買い物の真っ最中なのです。なんということでしょう!
ゲンキンだと笑いたくば笑ってください。大澤君はいないけど、幸せポイント十倍です! 河合君のラフな姿が見られるなんて、それだけでリラクゼーション満載です!
彼は今、量販店のぶかぶかジャージ。パジャマみたいでカワイイ。で、すごい量の買い物。飲み物とかお菓子とか、カゴに山盛り。何の買い出しかな。一年だから先輩達の……あれ、でも待って、河合君がなんで買い出し?
氷川バスケ部のルールは昔から独特で、確か完全実力制。大澤君と河合君は栄光のスタメンだから、下級生でもマネージャ用事はしなくていい筈。頭の中でハテナが回る。苺ミルクを握って棒立ちのまま、うっかり凝視し河合君に気付かれ、間が悪くて困った事に。
(わーどうしよう?)
目が、目が合ってしまう。今更隠れる訳にもいかないし。地域の住民的にピンチ。
だけど実質モテる人は違う。
「こんばんは」
ニッコリ笑って挨拶してくれるんだ。私の事なんか知らない筈なのに。
まさかの展開にキョトンとして、また失礼だった。それに私がトリップしているものだから、河合君、戸惑ってるし。
「ええと、この間も美術室で」
恐る恐る声を掛けられ我に帰る私。常識的にピンチ。
慌てて「こんばんは」って言って、それから「荷物びっくり。すごい量」なんて。とってつけたように付け加えた。わざとらしいね。
「誕生会の買い出しです。部の先輩にサプライズするから新商品を探しに」
「そうなんだ。楽しそうだね」
無駄に焦って、かろうじてカゴを見ながら言った。
「運動部の買い出しって、やっぱスゴい量だね」
ああ、もっと気の利いたこと言えればいいのに。私センス無いなあ。
気の利いたことって何だろう。
「ええと……いつも沢山頑張ってるね」
残念。この程度だ。コレ位しか私には、無理。
「あ、ありがとうございます」
その後は妙な沈黙。
恥ずかしさに耐えきれなくて、曖昧に「じゃあ」と呟いてレジに行こうとしたら、河合君、
「あのこれ、よかったら使ってください」
私に割引券をくれた。ドリンクオール二十円割引。時々このコンビニが配るクーポン券だ。
戸惑う私に「ラスト一枚なんで、良かったら」と、ニッコリ笑ってくれる。なんかドキドキする。
「でも悪いよ」
「いいすよ」
またニコ、と笑うんだもの。「どうぞ」って。
勿論いただきました、そのクーポン券。宝物にしたかったけど、まだ店内に河合君がいるし。ありがたく苺ミルクを二十円引きで購入ナリ。
そうしたら、神様って本当によく見てるんだ。私のポイントカードが貯まっていて、レジで景品のアポロチョコが頂けちゃった。これは河合君の分だよね。だから買い物を続ける河合君に渡した。「クーポン券のお礼」って。悪いからいいですって言われたけど、無理矢理ポケットに入れてしまった。
「嫌いなお菓子だったらごめんね」
私、オバちゃんだったなあ。
「なんなのー朝から一人でニヤニヤー」
「キモっ。岩野田めっちゃキモー」
ええ、その通り。本日の私は朝からかなり怪しかった。でも話すと二人にかなり妬まれそう。『一日無視の刑』にもされそう。それに話すと幸せが減りそう。わーんどうしようー。
「ああ、またニヤニヤー」
「もー岩野田まじキモいー」
えへへ。だって昨日あの後も、とても良いものを見てしまったからなのです。河合君より先にコンビニを出た私、たまたまこちらに向かう大澤君ともすれ違えたのです。
大澤君も河合君とお揃いのぶかぶかジャージで、すごい量の荷物を両手に持っていた。お揃いジャージは某量販店の二組割引かな。やっぱりパジャマっぽくてめっちゃ可愛い。
だけど大澤君は当然、私には気付かなかった。美術室にいた三年なんて普通はいちいち憶えていない。でもそれが正常、河合君の反応がラッキーだ。
成り行きも見たくなって、反対車線の歩道から、こっそり彼等を眺めてみた。
河合君はコンビニから出てくると直ぐに、私があげたアポロチョコを大澤君に見せていた。そしたら大澤君、しゃがんでクチを開けて待つんだもの。あーん、て。河合君も開封して、クチの中にざざーってチョコを流し込むんだもの。それで(あ、入れすぎた)って顔して、容器を覗いて中身を確かめるんだもの。
(きゃあああああ二人とも可愛いいー……)
ひとりで悶絶した。河合君がちゃんと残りをポケットにしまっていたのが嬉しかった。大澤君の顎がワシワシ咀嚼するのもわかって、その横を河合君は飄々と歩いて……ふう、なんていいコンビなの。苺ミルクの入った小さなビニール袋が、北風でカサカサ同意した。
「岩野田、マジ変!」
「おーい帰ってこーい。その川渡るなー」
また妄想トリップしていたみたい。
「もう白状しなよ」
呆れられているので話す。でもそうなるとお母さんの件も話してしまう。二人に気を遣わせてしまう。
「掃除当番代わろうか」とは福田。「買い物の荷物持ちも手伝うよ」とは山根。
「お気持ちだけでいいよ。いつもありがとう」
感動の友情ストーリーになってしまう。
「じゃあ大澤チェック、岩野田の分もしといてあげるね」
「うん、いつでも遠慮なく帰っていいからね」
「いえ結構!」
それは謹んでお断り致します。
だからお菓子の話、羨ましがられるやら嫉まれるやら。
でもね、昨日のサムライスイッチから、二人は大進化したのです。
まず福田はポニテを卒業してオトナ可愛いショートボブにした。「もうママの言いなりにはならない」って。ウンウン。マジ似合うし可愛いし、何より瞳がキラキラしてる!
山根も『無駄に怒らない』事にしたって。偉いなあ。元々筋の通った山根だ。益々カッコいい。よし、私もがんばるぞ。何を? でもがんばるぞ。何をだろう?
もうすぐ師走。どんどん寒くなるけれど、本日もモブ活開始。
「だって今のうちだもん」
「今日も素敵集団!」
「うっとりだよねー」
今日の大澤君は素肌にジャージだった。寒くないのかな。でも前がはだけると着物を着崩したみたいで、一段とサムライに見える。
それから内緒でそうっと、河合君の事もチェックした。河合君も恰好いい。小柄で機敏で、韋駄天とか子天狗とか牛若丸とか、なんていうか、そういう感じ。イマドキの流行りイケメンとは違うけど、そこがまたうんといい。でも私は別に何にもしないし、追っかけもしない。ただ見てるだけ。私の唯一の長所は、自分をわきまえている所だもの。
それから山口も、またバスケ部を見ていた。でも今日はこの間より離れて、中校舎の二階の窓から。