雄大の濃紺のスーツが粉で白くなってしまったので、琴葉はさすがに申し訳なくなり、着替えてもらうことにした。

「別にいいのに。」

「よくないです。早瀬さん、副社長さんなんですよね?そんな方が粉で真っ白だなんて。」

「誰に聞いたの?それも杏奈から? 」

「はい、いろいろ教えてくださったので。」

なんとなくやましい気持ちになって、琴葉は雄大に背を向けて母屋の扉に手を掛けた。
開けようとすると後ろからグッと手を引かれ、驚いて振り向く。

「琴葉、俺の言うことだけを信じて。」

真剣な眼差しの雄大に、琴葉はこくんと頷いて答えた。

母屋に続く扉を開けると、奥は真っ暗でしんと静まりかえっていた。

「今電気を点けますね。」

電気を点けながらリビングへ通されるも、まったく人の気配はなくひんやりとしている。

「父のですが着れますかねぇ?」

隣の部屋から父親の服を持ってきた琴葉は、それを雄大に差し出す。
雄大は丁寧に受け取りつつ、

「琴葉、ありがたいんだけどご両親に挨拶もせずに借りれないよ。夜遅いけど、一言ご挨拶できるだろうか。」

と、琴葉に伺いを立てた。

琴葉は一瞬迷ったような素振りを見せたが、「えっと、じゃあこちらに」と雄大を隣の部屋へ案内した。