「彼女なんていないよ。」

「嘘です。写真見ましたよ。彼女さんと旅行だったんでしょ。」

雄大が否定するも、琴葉は今日昼間に起こったことを思い出しながら言う。
雄大は初め分からないような顔をしたが、よく考えると思い当たる節があった。

「…杏奈か?」

海外出張で空港からクライアント先へ行く途中、杏奈から写真を撮ろうとスマホを向けられていた。
会社から出る前、杏奈はminamiのパンを雄大に差し出していた。
そのことから雄大は、杏奈が昼休み中minamiに来て琴葉に写真を見せたのでは、と推測する。
雄大は、はあと大きくため息をつくと、首を横に振った。

「あいつとは何でもないよ。ただの同僚だよ。」

「でもとってもお似合いです。彼女さん綺麗だしスタイルも抜群だし、いつも優しいですしお土産もくださいましたし、私なんて足元にも及ばないっていうか…。」

言いながら、琴葉の目からは自然にポロポロと大粒の涙がこぼれていた。
彼女だと認めたくないけれど、彼女だと言われればお似合いすぎて認めざるを得ない。
それはとても苦しくて、琴葉の胸を締め付ける。

「琴葉、それは嫉妬してくれてると思ってもいいのかな?」

雄大が琴葉の目尻を優しく拭いながら尋ねると、答えない代わりに頬がピンクに染まっていく。
それは肯定と受け止めるにはあまりにも純粋すぎて、雄大の方がのぼせてしまいそうだった。

「俺は琴葉が好きだよ。琴葉は?琴葉は俺のことどう思ってるの?」

熱っぽい眼差しで見つめてくる雄大に、琴葉は嘘をつけなかった。

「私は…好きです。」

「よかった。」

その答えに、雄大は安堵の笑顔を見せそのまままた琴葉を抱きしめた。

「粉まみれになっちゃいますよぉ。」

「いいんだよ。そんなことよりも琴葉を抱きしめたいんだから。」

二人はしばらく、お互いの体温を確かめるかのように抱き合った。
心が通い合ったことが嬉しくて嬉しくて、離れたくなくて、ずっとこの微睡みに浸っていたかった。