昼休み、杏奈は久しぶりにminamiへ来ていた。

「シュガートップいただける?」

「はい、シュガートップですね。」

琴葉はショーケースの中からシュガートップをひとつトレーへ乗せる。

「あ、彼の分もほしいから二つにしてください。」

「かしこまりました。」

杏奈は他のパンも選ぶが、すべて二つずつ注文した。

レジで代金を払い財布をカバンにしまうと、「あ」と何か見つけたようにカバンをごそごそとして琴葉の前にひとつの包み紙を渡す。

「これ、よかったらお土産どうぞ。」

個包装された海外のチョコだ。
琴葉はそれを両手で受け取ると、杏奈へ尋ねる。

「わあ、ありがとうございます。どちらへ行かれたんですか?」

「ヨーロッパ方面へ。」

「素敵。私も行ってみたいです。」

ニコニコと笑顔で受け答えする琴葉の前に杏奈はスマホを取り出し、「写真見ます?」と、返事が返ってくる前にスマホを操作して琴葉に写真を見せた。

「すごい、ヨーロッパの街並みって何だか物語に出てきそうですね。素敵だなぁ。」

ページをめくっていくと、杏奈と雄大が腕を組んでいるツーショット写真が出てきて、琴葉は思わず「あっ」と声を発していた。

「ああ、これ?彼照れ屋なのよ。」

雄大はそっぽを向いているが、確実に腕を組んでいてその密着度は友人と呼ぶには近すぎる。
おまけに杏奈は“彼”と呼ぶので、琴葉は恐る恐る聞いた。

「…彼氏さんですか?」

「ええ、彼と一緒に行ったのよ。」

「へえ~。」

杏奈の堂々とした答えに、琴葉は急に胸がざわざわと騒ぎだした。
ドキドキと心臓が脈打つ度に動揺が大きくなっていく気がする。
そんな琴葉に、杏奈は冷たく言い放った。

「最近彼もこちらにお世話になってるみたいだけど、これからは私が買いに来るわ。雄大は将来有望でね、もうすでに副社長に就任してるけど、まだまだ建築士として大きな案件を抱えてるの。そんな彼がこんなところで油を売ってる暇はないのよ。」

杏奈はスマホをカバンにしまうと、畳み掛けるように言った。
それは、さながら宣戦布告のようだった。

「…そうですか。」

ポツリと呟いた琴葉だったが、それ以外の言葉は出てこず、心が締め付けられる思いがして落ち着くことができなかった。