家まで送るよと言うと琴葉はminamiを指定するので、雄大は不思議に思う。

「実はお店の裏に建っている一軒家に住んでいるんです。」

確かに、minamiの裏手に一軒家が建っている。
minamiとはデザインが異なっているので、それぞれが独立して建っているように見えて、まさかminamiと関連しているとは思いもよらなかった。
家は他にあって、毎日minamiという職場へ出勤しているのだと思い込んでいたので、雄大は驚きを隠せない。
しかも一軒家ということは実家住まいなのだろうと思い、雄大は時間を確認する。

「遅くなってしまってごめん。ご両親に怒られたりしない?」

「…大丈夫ですよ。とても素敵な時間をありがとうございました。」

丁寧にお礼を言ってからシートベルトを外そうと運転席側に体をひねると、優しく頭を引き寄せられて額に柔らかいものが触れた。
それがキスだと分かるのにそう時間はかからなかった。

「俺、明後日から海外出張に行くことになった。」

「え。」

「だからしばらく会えない。」

「そうなんですか、頑張ってください。」

応援のつもりで発した言葉は思いの外沈んでいて、琴葉は自分自身でも驚いた。
雄大がminamiを訪ねてくるという日々が、いつの間にか当たり前のことのように琴葉の日常を支配している。
それは、雄大にとっても同じだった。
寂しそうな表情を見せる琴葉に、意地悪くささやく。

「帰ってきたら今日の答え、聞かせて。」

低く甘いその声に、琴葉の頬は一気にぼぼっと紅く染まった。
先程までの寿司屋での出来事が走馬灯のようによみがえる。

雄大はそんなことはお構いなしに、助手席を開けて琴葉の手を取り、スマートに彼女を降ろしてから帰っていった。

「おでこにキスするなんてズルいよ。」

去っていく車を見送りながら琴葉はひとり呟き、額にそっと触れる。
全然嫌じゃなかったその行為に今更ながら胸が高鳴ってしまい、しばらく鳴りやむことはなかった。