そういえば、昼間も今も彼女以外の店員の姿を見ていないことに気付く。
この奥の部屋に入ってきても琴葉しかいないのだ。
不思議に思って雄大は聞いた。

「君はこの店のオーナーなの?」

「はい、そうですよ。」

「他の店員は?」

「えっと、私ひとりでやっています。」

琴葉の答えに、雄大は目を丸くして言う。

「すごいな。」

「いえいえ、そんなことは。ひとりなので、毎日必死ですよ。」

それは雄大の素直な感想だったが、琴葉は軽く笑いながら冗談めかして言った。

「はい、こちらがお取り置きしておいたシュガートップです。432円になります。」

すでに紙袋に入れて準備万端にしていた取り置きのパンを棚から出してレジカウンターへ置き、レジを打つ。
雄大は財布から1万円札を出し、レジを打つ琴葉に「釣りはいらない」と言った。

「えっ、いけません!」

「いや、遅れて迷惑をかけたし、こんなことくらいしかお詫びができない。」

「ダメですダメです。何をおっしゃっているんですか。」

琴葉は超特急でレジからお釣りを出し、今にも帰ろうとしている雄大の手を取りお釣りを両手で包み込むようにして渡した。