「はぁ…
 なんか思ったよりも難しいな…
 やる事も多いし
 わからない事がありすぎて
 自分の知識と実力が欠けている事が悔やまれる…」


マンションに帰ってくるなり
テーブルいっぱいに資料を広げ
ノートパソコンの画面と睨めっこ。


「まずはわからない部分を調べて
 専門知識を覚えないといけないか。
 陽向…さんに頼ってばかりってワケにも
 いかないし」


“陽向さん”って
自分で言って吹き出しそうになったわ。
何年振りに言葉にしたんだ?
当時アタシも
彼を名前で呼んでいたんだっけ。


「やめよ、そんな無駄な事を思い出すの。
 それよりも仕事仕事」


まったく先の見通しが立たないから
しばらく残業は確実だろうな…。


―――ピンポーン


「え、誰?
 こんな時間に」


もう夜も遅いんすけど。
なんなの…?


なんとなーくイヤな予感がしながら
玄関のモニターに目を移してみた。


「…早乙女さん?」


モニターに映っていたのは
今にも泣き出しそうな顔をした
早乙女さんの姿だった。

何事よ?