「ビックリだよな…
 突然、父親が死んで母親が危篤状態とか聞かされて」

「煌月…」


消え入りそうな声で
少しずつ話始めた。


「もともと俺の両親
 登山が趣味で…それで出会ったらしいんだ。
 2人とも長い事経験してるから
 慣れてるほうだった。
 それでも毎回『気を付けろ』って言って送り出してた。
 もちろん今回もな。
 なのに…滑落したんだと…」


時折、ギュッと拳を強く握りしめ
耐えているように窺えた。

誰よりもショックで
誰よりも悔しいのは
残された遺族だ。
今コイツはきっと
頭ん中を整理したり
現実を受け入れるのに
必死なのかもしれない。


そんなヤツに
気安く『大丈夫?』だなんて
聞けるはずがない。

掛ける言葉が見つからない…


「発見されたとき
父親は母親を庇うように倒れていたらしい。
 即死だって聞いてる。
 落ちた高さがあったから
 母親も結局…」

「もういいから…
それ以上は言わなくて大丈夫だから…」


苦しめたいワケじゃない。
こんな残酷な現実を
コイツの口から言わせたくない。