一人の子の手首を掴むと、彼女は振り返る。

目が合った。その瞳に浮かび上がった嫌悪感に気付いた瞬間、喉がきゅっと詰まった。

どうして……?

喉の奥にいびつな物を押し込まれているような圧迫感で息をするのが精いっぱい。

肩が自然と上下する。

言いたいことはたくさんある。でも、何の言葉もでてこなかった。

『――何?痛いんだけど!!』

彼女がわたしの手を振り払う。

『もういこっ!』

もう一人が彼女の腕を引っ張り教室から出て行く。

数分前まで友達だと思っていた二人は、もう友達ではなくなった。

必死に声を出そうとしても、何の音も出てこない。

胸が張り裂けてしまいそうだった。

『うわ、なにあれケンカ?』『悲惨じゃない……?』『女子こえーな』

周りの声にいたたまれない気持ちになる。

わたし、嫌われることした?二人にいやなことした?ムカつくことした?

何かしたなら謝るから。だから言ってよ。無視しないで。

無視が一番きついよ。ねぇ……。

言葉にできない心の中の声だけが胸の中にたまっていく。

どうしてわたしは何も言えなかったんだろう。

風邪でもひいてしまったんだろうか。それとも、喉の調子が悪いだけなのか。

2人に裏切られたということがショックで言葉が出なかったのか。

わからないけれど、そのときはそんなことはどうでもいいことに思えた。

仲良しの友達だと思っていた2人に無視されたことのほうがずっと辛くて深刻で大変な出来事だったから。