再び公園に戻り、桜の木を見上げた。

時計の針は18時を回っている。

静かな空気の中、沈みそうでなかなか沈まない真っ赤な夕日に目を細める。

隣を見ると藤原くんも同じように目を細めている。

その横顔があまりにも綺麗で胸が苦しくなる。

どうしたんだろう、わたし。

こんな気持ち初めてだ。甘酸っぱい感情が胸いっぱいに広がっていてもたってもいられない気持ちになる。

ペットボトルのお茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせるとふいに強い風が吹いた。

昼間とは違い冷たい春風に腕をさすっていると、ふわっと体中が甘い匂いに包み込まれた。

わたしの肩にはさっきまで藤原くんが着ていたブレザーがかけられている。

まいったな、と心の中で笑う。

まだほんのりと藤原くんの体温が残っているせいで、藤原くんに抱きしめられていると錯覚してしまいそう。

【藤原くん 寒いでしょ?】

隣にいる藤原君にメモ帳をかざす。

「全然寒くない」

わたしは足元のバッグから取り出した長袖ジャージを藤原くんの背中にかけた。

【これでさむくない?】

「あのさ、結衣」

うん?首を傾げる。

「なんでわざわざ交換こみたいになってんの?」

ああ、確かに言われてみれば。

自分の無意味な行動に苦笑いを浮かべると、藤原くんがそっとわたしの膝にジャージをかけ直した。

「ありがとな。でも、俺は大丈夫」

いいながら藤原くんはジッとわたしの横顔を見つめた。