「あっ、そうだ。アイス食う?付き合ってくれたお礼」

鼻をすすり泣くのを堪えるわたしに藤原くんは笑顔を崩すことなく袋から取り出した棒付きのバニラアイスを手渡した。

つづいて自分の分のアイスも取り出し美味しそうにほおばる。

最初から2つ買ってくれていたんだ。わたしの分まで。

藤原くんはどこまでも優しすぎる。

「つーか、結衣のアイス溶けてる」

「――!」

掴んでいる棒の部分にまで溶けたアイスが滴り落ちてきている。

「マジかよ!普通気付くだろ~?結衣は鈍感だなー」

隣を歩く藤原くんは慌てるわたし見て呆れたように笑っていた。

「あっ、ヤバい。俺のも垂れてきた!」

でも。藤原くんのほうもわたしと同じ惨事が起きていた。

「やべー超ベタベタ!」

顔を歪める藤原くんに気付かれないように、わたしはくすっと笑った。

スーッと田んぼ道を生ぬるい風が通り抜けていく。

藤原くんの柔らかそうな猫っ毛の前髪がふわっと揺れる。

そのとき、こめかみに3センチほどの傷があるのに気が付いた。

その傷、どうしたの?子供の時につけた傷?

そういえば、わたしは藤原くんのことを何も知らない。