教室は相変わらず活気で満ち溢れている。

固まってしゃべっているクラスメイトの間をすり抜けるように自分の席へ向かい、窓の外の桜に視線を向ける。

もうほとんど散りかけている桜に視線を向け、今日の放課後にもう一度あの公園へ行ってみようと決めた。

そのとき、「結衣、おはよう」頭上からそんな声が降ってきた。

顔を持ち上げると、そこにいたのは藤原くんだった。

小さく頭を下げてから教科書を机にしまっているとき、ふと川崎さんから受け取ったノートが目についた。

藤原くんと一緒に目を通しておいてと頼まれていたのを思い出す。

藤原くん、とすぐに声をかけられればいいのにわたしにはそうすることができない。

スカートの上の右手をそっと持ち上げる。手のひらの猫はまだうっすらと残り消えていない。

ゆっくりと手を伸ばす。藤原くんの背中と自分の手の距離が近付くほどに心臓がドクンドクンッと暴れ出す。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。


何度も呪文のように唱えて自分自身に必死にそう言い聞かせる。

と、次の瞬間、「奏多、ちょっと来て~!」クラスメイトに名前を呼ばれた藤原くんがスッと立ち上がり歩き出す。