「この絵、見て?何に見える?」

わたしは自分の右手の平を両親に向けた。

油性ペンで書かれた猫の絵は手を洗っても少し薄れただけでほとんど形になって残っている。

両親はまじまじとわたしの手のひらを見つめた後、

「えっ、怪獣?」

「いや、違う。恐竜だ」

両親は恐ろしく真面目な顔で答えた。

「あははは!!やっぱりそういう風に見えるよね?」

お腹がねじれそうなほど痛い。

やっぱり誰が見てもこれは猫には見えないらしい。

ひとしきり笑ったあと、私が「猫らしいよ」と伝えると、両親は目を見合わせて後「どう見ても猫じゃない!」と大笑いした。

こうやって家族全員で心の底から笑ったのは久しぶりな気がする。

嬉しくなって次から次へと言葉があふれ出す。

今まで自分の中にため込んでいたものを吐き出すかのように。

「これね、藤原くんが書いたの。周りから画伯って呼ばれてたって言ってたからすごいうまいんだと思ったら……ねっ、藤原くんって少し変わってるでしょ?」

「面白い子だね」

「うん。一緒に図書館だよりをつくることになって藤原くんが絵を書いてくれるって言ってた」

「個性的で面白い図書館だよりが作れそうじゃない」

「うん」

そっと自分の手のひらを見つめる。

いつもスカートを握り締めているわたしの手のひらには藤原くんの描いてくれた猫がいる。

なんだか不思議な気持ち。でも、嫌じゃない。

「やっぱり、猫じゃない」

フッと微笑んで顔をあげると、両親が温かいまなざしでわたしを見つめていた。

「ん?」

「よかったね、結衣」

母はそう言うと、嬉しそうに再びハンバーグを口に運んだ。