「あっ、今日は油性ペンだったからそこそこにしか書けなかったけど、ボールペンならこれ以上にもっとうまく書けるから」

あ然とするわたしに藤原くんが得意げに鼻を鳴らす。

これ以上にもっと、ということはこれもそこそこに書けたと思ってるっていう認識でいいのかな?

……ああ。そうか。そうだったんだ。

その時、ようやく理解した。藤原くんを画伯と讃えた友達の本当の意味での『画伯』の意味を。

ごめんなさい、神様。

藤原くんには絵の才能だけは与えられていなかったみたい。

「図書館だよりの絵は俺が書くから」

自信ありげな藤原くんの言葉にわたしは彼には見られないように苦笑いを浮かべることしかできなかった。

藤原くんは結局わたしの家の前まで着いてきた。

「結衣、また明日な~!ちゃんと学校来いよー!」

手をヒラヒラと振って去っていく藤原くんに小さく頭を下げる。

送ってもらっちゃった……。

男の子とこんなに長い時間二人っきりでいたのも、家まで送ってもらったのも今日が初めて。

なんだか妙な気持ちが沸き上がる。それを押し殺してふぅと息を吐くと生ぬるい風が前髪を揺らす。

いつものように門扉の横のチャイムを鳴らして玄関扉へ向かう。

そのとき、ハッとした。

誰かがいる!!南側の庭にしゃがみこむ人影に気付き身を固めた時、

「おかえりなさい、結衣」

手に手袋をはめ、ハサミを持ったお母さんがのそりと笑顔で立ち上がった。