でも、ここで逃げるのははばかられる。
藤原くんとはこれから図書委員として一緒に図書館だよりを作ることになっているし、引き受けると決めた以上、精いっぱい自分のやるべきことをしなくてはならない。
そのためには藤原くんとの協力は不可欠だ。
「あっ、そうそう。俺、画伯って言われてるって言ったじゃん?」
突然、藤原くんが何かを思い出したかのようにおもむろに通学バッグを開けてその中から油性ペンを取り出した。
確かに図書室で藤原くんはそう言っていた。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。
それに、絵がうまい。天は二物を与えずっていうけど、彼にいたっては三物どころか四物まで与えているということになる。
わたしに少しでも分けてくれたらいいのに。
「……!?」
ぼんやりそんなことを考えていると、彼はおもむろに私の右手を掴んだ。
「ちょっと手、貸して」
言うより先にわたしの手を掴んでいた藤原くんはわたしの右の手のひらに迷うことなくペンを走らせる。
え、え、え。これって一体どうゆう状況なの?
困惑して固まるわたしのことなんて全くお構いなしに藤原くんはただひたすらにペンを動かす。
手のひらに感じるペンの感触がくすぐったくて吹き出しそうになる。