目立つ人の発する声は嫌でもクラス中の視線を集めてしまう。
やめて。お願いだからわたしをこのままほおっておいて。
そうすれば、空気の様にクラスの中に溶け込むことができるはずだから。
もし溶け込めなかったとしてもいないものとして処理してもらえる。
透明人間でいられる。
今までもずっとそうだったように。そうできてきたように。
悲しいけれど、それがわたしの生きる世界。
この世界でしかわたしは生きていけない。
「奏多くん、だからね小松さんは……」
ズンズンと歩き、教室の扉に手をかける。
お願い。まだ言わないで。せめてわたしが出てからにして。
「――あの子は、しゃべれないんだって」
教室を出る寸前に聞こえたクラスメイトの言葉。
地獄耳の自分を心の中で責め立てる。
どうして聞きたくない話は聞こえて、聞きたい話は聞こえないんだろう。
鼻の奥がツンっと痛む。透明人間にだって心はある。
その言葉に藤原くんが何て返したのかはわからない。
「えっ、嘘!」「マジで?」「ヤバくない?」「すげービックリなんだけど!」
想像上の藤原くんの言葉が脳内をグルグルと駆け回る。
それを振り切るようにずんずんと歩き出す。
教室を出た後のことをまったく考えていなかった。
逃げるのが先だったから。心を深く傷つけられる前にわたしは逃げたのだ。
そうすることで自分自身を守るしかわたしに方法はない。
数歩歩いたところで立ち止まる。
行き当たりばったりもいいところ。逃げたってどこにも逃げ場などないのに。