「小松、自発的に手を挙げて偉かったな!よく頑張った」
ただ手を挙げただけなのに稲富先生はなぜかすごく嬉しそうだった。
一年生の時も担任は稲富先生だったけど、わたしが手を挙げて何かの意思表示をしたことは一度もない。
私が場面緘黙症というものを患っていることを知っている先生はわたしに何かを無理強いすることもなかった。そんな先生が担任でよかったと進級してからホッとした。でも、先生はいつだってわたしを特別扱いはしない。
昨日の自己紹介だってそう。話すことができないと分かっているのに、先生はわたしに自己紹介の機会を与えた。
ううん、違う。与えたんじゃない。
与えてくれようとしていたのかもしれない。
キッカケを作ろうとしてくれていた……?さっきの藤原くんのように。
立ち止まったまま動くことのできないわたしの背中を押してくれた……?
「それでだ、早々で申し訳ないが図書委員は今日の放課後から活動だ。藤原、小松、頼んだぞ!」
え。うそ。本当に?今日からなの……?
呆然とするわたしと「マジで?今日から?」と愕然としたような表情を浮かべる藤原くん。
「そんなに深刻そうな顔をするんじゃない!二人そろって」
先生の言葉に教室中がどっと笑いにつつまれ、あちこちから視線が飛んでくる。
やっぱり注目されるのは苦手だ。
わたしは恥ずかしさから耳を真っ赤にして再び斜め45度に視線を落とした。