「――なぁ、奏多~!ちょっと来てくんない?」

「あー、今行く」

椅子に腰かけるタイミングを見失って立ち尽くすわたしの肩をポンポンっと軽くたたくと、藤原くんはわたしの横を通り過ぎていった。

廊下に飛び出して逃げようかと思った。

でも、わたしは肩を叩かれたのを合図に再び椅子に腰かけて窓の外に視線を向けた。

『俺は結衣の敵じゃないよ』

そんな藤原くんの言葉が耳にこびりついて離れてくれない。

ソメイヨシノの花びらが風に舞い、地面を滑る。

『早く満開になればいいな?』

隣で寝転びながらそう言った彼の言葉がまだ耳に残っている。

藤原奏多。

藤原くんはどこか不思議でつかみどころがない。

わたしの背後で藤原くんが友達と楽しそうに話す声が聞こえてくる。

「いや、それお前がバカすぎんだろ」

「ハァ~?奏多に言われたくねーし!」

「いやいや、俺よりお前の方がバカでしょ」

何の話をしているのかはわからないけれど、藤原くんが笑っている姿がなぜか容易に想像できた。

クラス替え2日目にしてもう気付いてしまった。

藤原奏多という人間のすごさに。

彼にはとにかく友達が多い。多い、という言葉では収まらないほどの多さ。

常に彼の周りには吸い寄せられるようにわらわらと男女やクラス関係なく人が集まってくる。

そして、その周りにいる誰もが笑顔を浮かべている。

もちろん、等の本人である藤原くんは常に笑顔を浮かべて楽しそうにしている。

こんなわたしにまで声をかけてくれる藤原くん。

彼が人気者になるのは理解できる。

でも、ひとつだけ全く理解できない出来事が起こった。