「俺が話しかけなければ、結衣はこの教室で平和に過ごせんの?」

そう。その通り。藤原くんさえ話しかけてこなければ、わたしは平和な学校生活を送れるんだ。空気のように。透明人間になれるの。

「今までもずっとそうやって過ごしてきた?教室の中で一人でいることが結衣の望み?」

そう。それがわたしの望み。

藤原くんの目を見つめまま小さくうなづくと藤原君は息を吸い込んで溜息交じりに吐き出した。

「俺にはそうは思えないんだけど」

藤原くんの言葉に、得体のしれない焦燥感が全身を駆け巡る。

――違う!!わたしはこのままでいいの。

このままでいいんだから。だからお願い。ほおっておいて。

わたしに構わないで。

そう叫びたいのに、そんなわたしの叫びは握り締めていた手のひらからスカートに伝わり消えていく。

この場の空気に耐えられずおもむろに立ち上がったわたしを藤原くんが見上げる。

「――逃げんの?」

藤原くんの姿がぼんやりと滲む。