出来のいい子ではなくても、ふつうでいたかった。ふつうの娘でいたかった。

明るくて友達もたくさんいていつも楽しそうな笑顔を浮かべている女子高生。

あの日までは自分がそうなることを信じて疑わなかった。

夢や希望に満ち溢れた生活を送っていた。それなのに、今のわたしはどう?

夢や希望なんてない。何も叶わない。わたしは――とんだ出来損ないになってしまった。


翌朝、母に作ってもらったお弁当を玄関先で受け取る。

「気を付けてね」

「うん。いってきます!」

玄関の扉を開けると、爽やかな春の日差しに目を細める。

真向いの家の柴犬がワンワンっとしっぽを左右に振りながらこちらに向かって吠える。

犬語は分からないけれど、いってらっしゃいと見送ってくれているはず。

「いってきます」

今日も一日頑張ろう。

犬にもそう言葉をかけて肩にバッグをかけ直して歩き出す。

あと少しでわたしは言葉を発することができなくなる。

だったらそれまで、できる限りの声を発してみよう。

家の前の道路を南に向かって歩くと突き当りになる。