『結衣さんのことでお話がありまして……。結衣さん、学校で一言もしゃべろうとしないんです。ここ最近では教室の中で一人で過ごしています。ご家庭で何か問題でもありましたか?』

担任の先生からの電話でわたしの問題はすぐに両親に伝わった。

先生はわたしが何かに悩み、話すという行為をかたくなに拒んでいると思っていたらしい。
でも、そうではなかった。

拒否しているのではなく、話せないのだ。

『ねぇ、結衣。何か学校で嫌なことでもあったの?お母さんに話してみない?』

母は心配そうに尋ねた。

家では相変わらずおしゃべりな娘が学校で一言も言葉を発さないというのは母にとって衝撃だったに違いない。

口数の多くない父は何も言わなかった。でもわたしを心配しているのが空気を通して伝わってきた。

わたしは今自分に起きている状況をありのまま正直に話した。

学校の校門をくぐると喉の奥に違和感を感じて言葉が一切出てこないこと。

話そうと思ってもそれができないこと。

自分の意思で解決することはできないこと。

『そうだったのね……。気付いてあげられなくてごめんね。でも、言葉がでなくなってしまったキッカケはなに?思い当たることはない?』

それだけは言えなかった。

友達だと思っていた二人に裏切られて無視され、教室内で孤立していることを知れば、きっと両親はショックを受ける。

両親がわたしを大切に思ってくれているのを知っている。

だから、言葉がでなくなったことで両親に心配をかけている自分が嫌で嫌でたまらなかった。