回れ右して駆け出したいのに、足が地面にくっついてしまったかのように動かせない。

それ以上に戸惑ったのは彼の目から涙が溢れているということ。

流れる涙は頬から耳へと流れていく。

どうして眠りながら泣いてるの……?

再び吹き付けた春風が彼の前髪を揺らす。

まるで映画のワンシーンのようだった。

彼から目が離せない。

目の前の彼の涙はなぜかわたしの心をかき乱す。

「――てかさ、なんで泣いてんの?」

風が止む。

突然投げかけられた言葉にハッとした。

いつの間にか目を開けていた彼と、いつの間にか涙を流していた自分に驚きながら慌てて手の甲で頬の涙をぬぐう。

わたし、なんで泣いてるの。

彼は寝ころんだままじっとわたしを見つめる。

真っすぐなその瞳にすべてを見透かされそうだった。

何かを言いたいのに、声に出せない。